葉一達は校舎に向かって歩きながら、話をしていた。
香介「転校か。こんな時期に難儀やな」
葉一「まあな、仕方ないさ。それに転校して良かったと思ってるよ」
香介「そうなんか?前の学校はどんなとこやったんや?」
葉一「ああ、渡之原高校って言ってな…とにかく厳しいところだったよ」
香介「渡之原高校やて?…どこかで…霧羽……あーーー!!」
葉一「うわっ!」
梢「きゃあ!」
栞「何よ、いきなり叫ばないで!」
あまりの大声に思わず耳を塞ぐ三人に、さらに追い討ちをかける香介。
香介「渡之原高校の霧羽ってお前のことやっ…ぶはぁっ!」
栞「五月蠅いわよ香介!」
みぞおちに栞の掌底を食らってもだえる香介だが、それでも構わずに。
香介「わ、忘れたんか栞!去年の全国模試で、俺の一つ上の番数やった奴!」
栞「去年の?…ああ、あの時の。そっか、あれが葉一君だったのね」
葉一「話が見えないんだが…一体何の事だ?」
梢「私も知らないよ。何の事?」
二人して頭上に、?を浮かべて尋ねる。
栞「去年の九月に全国模試があったでしょ。その時、香介が一つ上の番数の人を目の敵にしちゃってね…。その人が葉一君だったみたいね。梢は去年、アタシ達とは違うクラスだったから知らないかな」
梢「そうなんだ。でも、何で一つ上なの?」
葉一「だよな。どうせなら、1番を目標にすればいいだろうが」
香介「そんなの決まってるわ!自分の目の前にいる奴から、順番に倒していかなあかんやろが!」
栞「はぁ…、変なところで律義なんだから」
梢「それで葉ちゃんは何番だったの?」
葉一「さあ?覚えてない」
香介「なんやと?俺なんか眼中にないっていうんか!」
栞「落ち着きなさいよ。…えーと、アタシが98番で香介が93番だったから…葉一君は92番ね」
梢「えぇー!三人ともそんなに頭良いんだ…私は6529番だったよ…」
葉一「3万人以上受けてたはずだから、その番数でもすごい方だと思うぞ。…それに自分でも言ってただろ?『頑張る事が大切』だってな」
梢「…うん、そうだよね。ありがとう葉ちゃん」
栞「はいはい、ごちそうさま」
香介「何見つめ合ってんや!…葉一!お前は今から俺のライバルや!梢ちゃんも、この学校の1番も渡さんからな!」
ビシッと、葉一を指差しライバル宣言する香介だが…
葉一「へぇ、香介ってこの学校の1番なのか…何のだ?」
ボケる葉一、ずっこける香介。
栞「はぁ〜…、テストの学年順位の事よ。いつもアタシと香介で競い合ってるんだけどね」
梢「二人とも凄いんだよ。いつも、どっちかが1番か2番なんだから」
葉一「へぇ、そうなのか。ちなみに、今までの対戦成績は?」
栞「5勝4敗でアタシの勝ち」
香介「まだ勝負は着いてへん!何なら今から勝負してもええで!」
栞「ここで何の勝負をするのよ!まったく…二人とも離れた方がいいわ。アホが感染するわよ」
梢「感染…するものなの?」
栞「こいつのは伝染性のアホなのよ。空気感染の怖れがあるわ。これでアタシと同じ成績だなんて…奇跡ね」
香介「俺は病原菌か!脳味噌筋肉女がよく言うわ!」
梢「三原君…それ以上は…言わない方が…」
栞「どうやらアタシの手刀を食らいたいようね…」
栞の体からかなり危険なオーラが発生してるような…
(気のせい…じゃないな、恐い女)
香介「い、いや…ほ、ほんの冗談や。勘弁してくれ……」
栞「……次はないわよ」
さっきまでとは打って変わって、栞に怯える香介。その憐れな姿に栞も許してくれたらしい…
葉一「何であんなに怯えるんだ?」
香介「当たり前や!下手に怒らせると消される!」
小声だが、妙に真剣な表情で力説する香介。
香介「お前は転校してきたばっかりだから知らんのや!栞の『脳天唐竹割り』を食らったら、ただじゃすまへん…」
(確かに…さっきはなんとか受け止められたが…あと0.5秒遅れていたら食らってたな)
葉一ですら危うかったほどの手刀である。並の人間では避けるのさえ難しい…
葉一「栞って、空手か何かやってるのか?」
香介「いいや。あの女の凶暴は生まれ付きや!先祖がキングコングやったに違いないわ!」
栞「……何か言ったかしら♪」
背後から殺気を感じた…
恐る恐る振り返る香介。そこにいた栞の顔は声とは裏腹に、笑ってない……
香介「……う、盗み聞きとはええ趣味やないか…」
栞「アンタこそ、独り言はもっと小さい声で言ったら」
香介「これでも小さいつもりや…お前こそ、デビルイヤーがパワーアップしたんやないか?だんだん人間でなくなっとるな……あ…!さ、さいならっ!」
(トドメをさしたか)
栞「……殺す」
すかさず走り去る香介より、さらに速く追いかける栞。
栞「誅殺!!!」
香介「ぎぃやぁぁぁぁぁーー!!!」
栞の真空飛び膝蹴りは、見事に香介にヒットして…
香介の叫び声は百メートル先からでもはっきり聞こえた…
葉一「……口は災いの元のいい見本だな」
梢「そんなあっさり言うと可哀相だよ…二人はいつもあんな感じだから…でも、仲が良い
から、見てると楽しいよ」
葉一「仲が良いって、あれがか…?良くて、喧嘩友達だぞ」
梢「まあ、そうなんだけど。二人は『月宮学園ど突き漫才夫婦』って言われてるから」
苦笑する梢だが、でも…と言葉を続ける
梢「お互いに言いたい事を言い合えるのは、とても大切だと思うよ。変に気を遣ってたら、自分の本当の気持ちを表に出せなくなって…相手にも伝えられないから」
葉一「…………」
葉一は何も言えなかった。自分にも当てはまる言葉のように聞こえたから…
梢「?どうしたの、葉ちゃん」
葉一「いや、何でもないよ」
梢の声に我に返った葉一は、とっさに梢に尋ねた。
葉一「梢にはいるのか?本当の気持ちを伝えたい相手が」
梢「いるよ!」
即答した梢。葉一は意味があって聞いたわけではないから、深く考えなかった。
葉一「俺の気持ちか…伝えられるのかな?」
梢「何か言った?」
葉一「いや、なんでもないよ…」
さっきの梢の言葉が忘れない葉一だった…
第5話 完
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