第5話
非日常的な日常

葉一達は校舎に向かって歩きながら、話をしていた。

香介「転校か。こんな時期に難儀やな」

葉一「まあな、仕方ないさ。それに転校して良かったと思ってるよ」

香介「そうなんか?前の学校はどんなとこやったんや?」

葉一「ああ、渡之原高校って言ってな…とにかく厳しいところだったよ」

香介「渡之原高校やて?…どこかで…霧羽……あーーー!!」

葉一「うわっ!」

梢「きゃあ!」

栞「何よ、いきなり叫ばないで!」

あまりの大声に思わず耳を塞ぐ三人に、さらに追い討ちをかける香介。

香介「渡之原高校の霧羽ってお前のことやっ…ぶはぁっ!」

栞「五月蠅いわよ香介!」

みぞおちに栞の掌底を食らってもだえる香介だが、それでも構わずに。

香介「わ、忘れたんか栞!去年の全国模試で、俺の一つ上の番数やった奴!」

栞「去年の?…ああ、あの時の。そっか、あれが葉一君だったのね」

葉一「話が見えないんだが…一体何の事だ?」

梢「私も知らないよ。何の事?」

二人して頭上に、?を浮かべて尋ねる。

栞「去年の九月に全国模試があったでしょ。その時、香介が一つ上の番数の人を目の敵にしちゃってね…。その人が葉一君だったみたいね。梢は去年、アタシ達とは違うクラスだったから知らないかな」

梢「そうなんだ。でも、何で一つ上なの?」

葉一「だよな。どうせなら、1番を目標にすればいいだろうが」

香介「そんなの決まってるわ!自分の目の前にいる奴から、順番に倒していかなあかんやろが!」

栞「はぁ…、変なところで律義なんだから」

梢「それで葉ちゃんは何番だったの?」

葉一「さあ?覚えてない」

香介「なんやと?俺なんか眼中にないっていうんか!」

栞「落ち着きなさいよ。…えーと、アタシが98番で香介が93番だったから…葉一君は92番ね」

梢「えぇー!三人ともそんなに頭良いんだ…私は6529番だったよ…」

葉一「3万人以上受けてたはずだから、その番数でもすごい方だと思うぞ。…それに自分でも言ってただろ?『頑張る事が大切』だってな」

梢「…うん、そうだよね。ありがとう葉ちゃん」

栞「はいはい、ごちそうさま」

香介「何見つめ合ってんや!…葉一!お前は今から俺のライバルや!梢ちゃんも、この学校の1番も渡さんからな!」

ビシッと、葉一を指差しライバル宣言する香介だが…

葉一「へぇ、香介ってこの学校の1番なのか…何のだ?」

ボケる葉一、ずっこける香介。

栞「はぁ〜…、テストの学年順位の事よ。いつもアタシと香介で競い合ってるんだけどね」

梢「二人とも凄いんだよ。いつも、どっちかが1番か2番なんだから」

葉一「へぇ、そうなのか。ちなみに、今までの対戦成績は?」

栞「5勝4敗でアタシの勝ち」

香介「まだ勝負は着いてへん!何なら今から勝負してもええで!」

栞「ここで何の勝負をするのよ!まったく…二人とも離れた方がいいわ。アホが感染するわよ」

梢「感染…するものなの?」

栞「こいつのは伝染性のアホなのよ。空気感染の怖れがあるわ。これでアタシと同じ成績だなんて…奇跡ね」

香介「俺は病原菌か!脳味噌筋肉女がよく言うわ!」

梢「三原君…それ以上は…言わない方が…」

栞「どうやらアタシの手刀を食らいたいようね…」

栞の体からかなり危険なオーラが発生してるような…

(気のせい…じゃないな、恐い女)

香介「い、いや…ほ、ほんの冗談や。勘弁してくれ……」

栞「……次はないわよ」

さっきまでとは打って変わって、栞に怯える香介。その憐れな姿に栞も許してくれたらしい…

葉一「何であんなに怯えるんだ?」

香介「当たり前や!下手に怒らせると消される!」

小声だが、妙に真剣な表情で力説する香介。

香介「お前は転校してきたばっかりだから知らんのや!栞の『脳天唐竹割り』を食らったら、ただじゃすまへん…」

(確かに…さっきはなんとか受け止められたが…あと0.5秒遅れていたら食らってたな)

葉一ですら危うかったほどの手刀である。並の人間では避けるのさえ難しい…

葉一「栞って、空手か何かやってるのか?」

香介「いいや。あの女の凶暴は生まれ付きや!先祖がキングコングやったに違いないわ!」

栞「……何か言ったかしら♪」

背後から殺気を感じた…

恐る恐る振り返る香介。そこにいた栞の顔は声とは裏腹に、笑ってない……

香介「……う、盗み聞きとはええ趣味やないか…」

栞「アンタこそ、独り言はもっと小さい声で言ったら」

香介「これでも小さいつもりや…お前こそ、デビルイヤーがパワーアップしたんやないか?だんだん人間でなくなっとるな……あ…!さ、さいならっ!」

(トドメをさしたか)

栞「……殺す」

すかさず走り去る香介より、さらに速く追いかける栞。

栞「誅殺!!!」

香介「ぎぃやぁぁぁぁぁーー!!!」

栞の真空飛び膝蹴りは、見事に香介にヒットして…

香介の叫び声は百メートル先からでもはっきり聞こえた…

葉一「……口は災いの元のいい見本だな」

梢「そんなあっさり言うと可哀相だよ…二人はいつもあんな感じだから…でも、仲が良い
から、見てると楽しいよ」

葉一「仲が良いって、あれがか…?良くて、喧嘩友達だぞ」

梢「まあ、そうなんだけど。二人は『月宮学園ど突き漫才夫婦』って言われてるから」

苦笑する梢だが、でも…と言葉を続ける

梢「お互いに言いたい事を言い合えるのは、とても大切だと思うよ。変に気を遣ってたら、自分の本当の気持ちを表に出せなくなって…相手にも伝えられないから」

葉一「…………」

葉一は何も言えなかった。自分にも当てはまる言葉のように聞こえたから…

梢「?どうしたの、葉ちゃん」

葉一「いや、何でもないよ」

梢の声に我に返った葉一は、とっさに梢に尋ねた。

葉一「梢にはいるのか?本当の気持ちを伝えたい相手が」

梢「いるよ!」

即答した梢。葉一は意味があって聞いたわけではないから、深く考えなかった。

葉一「俺の気持ちか…伝えられるのかな?」

梢「何か言った?」

葉一「いや、なんでもないよ…」

さっきの梢の言葉が忘れない葉一だった…


第5話  完

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