?「さっきから何やってんだ。少しは静かにしろ、近所迷惑だぞ!」
栞が香介を連行してきたら、いきなり声がした。
梢「あの声は…武宮先生?」
武宮「相変わらず騒々しい二人だな。そんな元気があるなら、俺の相手でもしてくれよ」
現れたのは、30歳くらいの男だった。どうやら教師らしいが、無造作にまとめられた髪型と半袖のTシャツ姿では、とてもそうは見えない。
栞「いや〜、今日こそ香介の馬鹿を更生しようと思ったんですけどね。コイツしぶといですから」
香介「お前のは更生やない、ただの暴力や!俺でストレス発散しとるんやないか?」
栞「アタシにストレス溜めさせてるのは誰よ!?もう一回やる?」
武宮「だから止めろって。何なら俺が相手になるぞ」
途端に大人しくなる二人
(この二人が…そんなに恐いのか、この先生)
武宮「ん、お前は誰だ?」
葉一「渡之原高校から転校してきました、霧羽葉一です。よろしくお願いします。」
礼儀くらいはと、丁寧に頭を下げる葉一。
武宮「俺にそんな礼はいらないぞ。そうかお前が転校生か。…ちょっくら荷物検査でもするか」
(ヤバイ、家宝の剣を見られたら…)
間違いなく没収されるだろう。もしかしたら転校早々、退学の可能性が…
武宮「その背中の物は何だ?」
葉一「あ、いや、その…」
どうすればいいのか、葉一が慌てていると…
武宮「…ぷっ、ははははっ!…そう焦るな、冗談だ。お前の事は、霧羽のじいさんから聞いてるよ」
葉一「え?じいちゃんを知ってるんですか?」
武宮「ああ、以前ちょっとな。今日の昼頃に電話してきたよ。『孫を頼む』とな。その背中の物の事も聞いてる。心配するな、俺は男子寮の責任者だからな。俺が目をつぶれば問題ない」
葉一「はぁ…いいんですか?」
武宮「ああ。とにかくよろしくな、葉一。俺は武宮将悟、世界史を教えてる」
葉一「あ、はい。よろしくお願いします」
武宮「だから、俺にはそんな丁寧な礼はいらないって。そういうところは、じいさんそっくりだな。そういえば…お前も剣が使えるんだってな。相当の腕前だって聞いてるぞ」
葉一「いえ、俺なんか。一人前の剣士になるには、まだまだ修行が足りないですよ」
武宮「そう謙遜するな。自信も時には大切だぞ。…どうだ、俺と試合してみないか?」
葉一「え?先生も剣を」
武宮「ああ。だけどこの学園じゃ、俺の相手になる奴はいないからな。物足りないんだよ」
葉一「え?いや、しかし…」
梢「先生、葉ちゃんは疲れてますから。また今度にしませんか?」
助け船を出してくれる梢。
武宮「それもそうだな。…しかし梢?」
梢「はい、何ですか?」
武宮「『葉ちゃん』て呼ぶなんて、お前ら恋人同士か?」
梢「うぇっ!?えっと、その、葉ちゃんとは幼馴染みで、えっと…」
葉一「そ、そうですよ。梢は別に恋人とかじゃなくて、その…」
先生の問いに焦る二人は、上手く口が回らない。
武宮「二人とも、耳まで真っ赤だぞ。そんなに慌てるな、冗談だ。しかし、恋愛は大いに結構!頑張れよ、じゃあな〜♪」
笑いながら去って行く先生。
葉一「なんか変わった先生だな…」
梢「うん。でも、生徒からは人気あるみたいだよ。堅苦しい人じゃないからね」
葉一「その割に、栞と香介は苦手みたいだが?」
香介「おっちゃんの相手させられたんや…」
げんなりした表情で話す香介。
香介「武宮のおっちゃんの剣の腕前は普通やない…打ち込んでも全部受け流されて、反対にやられるんや。俺が何回ボコボコにされたか…思い出したないわ…」
栞「アタシも何回か試合したけど、全然相手にならない。お互い素手なのに、一発も当たらないの。必殺の手刀も躱されて…」
(栞の手刀を躱せるのか…かなりの腕前だな。確かに栞の動きは直線的だから、見切ってしまえば出来ないこともないが…あのスピードを上回らないと、躱すのは難しい。受け止めたほうがまだ確実だ)
真剣な表情で思索にふける葉一。
(勝てるのか、俺)
先生の強さに不安になる葉一。
梢「葉ちゃんならきっと勝てるよ!私、信じてるから」
梢はそうやって葉一を励ました。葉一を信じているからこそ、頑張ってほしいのだ。
葉一「ああ、ありがとう梢。なんか、励まされてばっかりだな、俺。情けないよ」
梢「そんなことないよ。葉ちゃんは昔よく私を助けてくれたから、私も葉ちゃんの力になりたいの。……迷惑かな?」
葉一「とんでもない…嬉しいよ」
武宮「熱いな、お二人さん♪」
いきなりやってきた先生に、二人はビックリ。
葉一「せ、先生!おどかさないで下さいよ。まったく…」
武宮「悪い悪い、そんなつもりじゃなかったんだが。二人の世界に入ってるから、声かけづらくてな」
梢「…何の用ですか?」
何故か不機嫌な梢。
武宮「拗ねるな。いや、言う事あったの忘れててな。配送された葉一の荷物が届いてるから、部屋に運んでおけよ。部屋は香介と同じだ、手伝ってやれよ。荷物は事務棟の一階の空き部屋にあるから。じゃな♪」
伝える事だけ伝えてさっさと帰る先生。
葉一「香介と相部屋か。よろしくな」
香介「おう!こっちこそ、よろしくや」
栞「じゃあ、さっさと運びましょ。四人でやれば早く済むわ」
梢「そうだね。早く行こうよ、葉ちゃん」
葉一「わかったから、引っ張るな!…男子寮はあっちか。女子寮とは反対側なんだな」
栞「当たり前よ。馬鹿は星の数ほどいるからね…」
栞は香介を睨んで呟く。
(なんとなく、何をしたかわかった…)
梢「私は栞ちゃんと相部屋だから。これでみんな一人で寂しくなんてないね♪」
香介「そうやな。どうせなら、みんなで同じ部屋に寝るってのもええんやない…うごはぁっ!!」
栞のボディブローが炸裂した…
栞「まだ懲りてないわね…何なら、アタシと同じ部屋でもいいのよ」
香介「いや、遠慮しとくわ…栞の寝相が悪うて体がもたんがな…ぶふぉっ!」
(ホントにいつか死ぬかもしれんな…)
心の中で合掌して冥福を祈る葉一。
先に行く二人の後ろで、何が起こっているかは…あえて言うまい。
第6話 完
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