第7話
更けゆく夜

葉一「よし、これで片付けはお終い。みんな、ありがとうな。おかげで助かったよ」

香介「そんなん気にすんなや。俺らの仲やろ?」

栞「そうよ友達なんだから。困った時はお互い様ってね」

まだ会ったばかりだというのに、栞と香介は自分を友達と呼んでくれている。葉一はそれ
が嬉しかった。

葉一「でも大変だっただろ」

梢「荷物はそんなに多くなかったから、大変じゃないよ」

香介「しかし、こんな少なくてええんか?足りない物とかあるんやないんか」

葉一「ああ、だから暇な時にでも買物に行って来るつもりさ」

梢「じゃあ、一緒に行こうよ。案内してあげるから」

葉一「助かるよ梢。さて…この後はどうしようか」

時刻は5時半。特にする事もない葉一は、どうやって暇を潰すか考えていた。

栞「じゃあ、アタシと梢は夕飯の支度があるから」

葉一「梢と栞が?食堂のおばちゃんとかが、いるんじゃないのか?」

香介「普段はな。でも今は夏休みやから、職員は全員休みや。武宮のおっちゃんだけ、学園の管理責任者として残ってるんや」

梢「今学園内にいるのはみんなで5人。ちょっと寂しいよね」

栞「梢は葉一君さえいればいいんでしょ?」

梢「栞ちゃん!もう…」

葉一「そうか…よし、じゃあ俺も夕飯の支度手伝うよ」

香介「お前、料理できるんかいな!?」

葉一「ああ、母さんに家事全般をみっちり仕込まれてね。おかげで一人暮らししても困らないよ」

梢「凄いよ、葉ちゃん」

栞「悪いわね、来たばっかりなのに」

葉一「気にするな、さっきのお礼みたいなもんさ。それに、友達だろ?当然だよ」

梢「じゃあ一緒に作ろう、葉ちゃん」

香介「ほな俺も梢ちゃんと一緒に…」

栞「アンタはこの段ボールを片付ける事!反論は聞かないから、そのつもりで」

香介「そんな〜!むごいがな〜」

叫ぶ香介を尻目に食堂へ向かう三人だった。



エプロンを付けて早速料理開始。

栞「あまり時間が無いから、今日はカレーにしましょ。私は先にスープ作ってるから、二人はカレーの方お願いね」

葉一と梢で材料を切っている間、栞はカレーと同時進行でスープを作っている。

葉一「玉葱は皮剥いてから水に漬けておくと、切るときに泣かないで済むぞ」

梢「へぇ、そうなんだ。私いっぱい泣いたよ…」

葉一は慣れた手つきだが、梢はやや危なっかしいところがあった。

梢「私、料理って全然出来ないから、栞ちゃんに教えて貰ってるの。まだ失敗ばかりだけどね」

葉一「そうなのか?まあ、頑張ってるなら、いつかは上手くできるさ」

梢「うん!…いつか葉ちゃんに私の手料理食べて欲しいから…」

栞「アンタ達、まるで新婚カップルみたいよ」

梢「栞ちゃん!…きゃっ!…いったーい!」

栞の冷やかしに梢は手元が狂って、包丁で指を切ってしまった。

葉一「大丈夫か?とりあえず傷口を水洗いして…絆創膏貼って…と。これでよし」

てきぱきと応急処置する葉一

梢「…ありがとう、葉ちゃん」

葉一「気にするな。…栞、お前はもう余計な事言うなよ。梢の手が傷だらけになったら大変だからな」

栞「だったら葉一君が責任取ればいいでしょ…って、ゴメンてば梢。怒っちゃやーよ」

梢「もうっ…」

そんなこんなで夕飯の準備は進む。

栞「インスタントのルーじゃ、どうしても味が問題よね」

梢「うん、しょうがないよ」

葉一「いや、そんなことはないぞ。要は味付けさ」

鍋で煮込まれているカレーの中に、調味料を入れながら味見する葉一。

葉一「こんなもんかな。ちょっと味見してみてくれ」

栞「…うそっ!?本当にインスタントなの?」

梢「おいしいよ!専門店のカレーみたいな味がするよ」

夕飯に出されたカレーライスは大好評で、たくさんあったカレーの鍋は空っぽである。

夕飯の片付けも終わり、葉一は風呂に入って一日の疲れを癒した。

葉一「…ふーっ。今日は大変な一日だったな…」

風呂上がりに外を散歩している葉一の前に、ひょっこりと梢が現れた。

梢「葉ちゃん、何してるの?散歩?」

パジャマに着替えた梢。風呂上がりらしく、シャンプーの香りがする。

葉一「ああ。しかし梢、そんな格好だと風邪ひくぞ。お前は昔から、風邪ひきやすいんだ
からな」

梢「大丈夫だよ、もう大人だもん。…それに、いざって時は葉ちゃんに暖めてもらうから」

葉一「…そんな恥ずかしい事を、ここでさせる気か?」

梢「私が風邪ひくのと、どっちがいいの?」

葉一「…またそんなこと言って。…ったく、わかったよ。そん時は暖めてやるよ」

なんだかんだ言いながら、葉一は梢を気にかけているわけで…

梢「ふふっ…でも風邪ひくのもいいかも」

葉一「オイ。ホントにひいたらどうする気だ?」

梢「そしたら葉ちゃんが私の看病してね…そしたらすぐに治るから、きっと」

葉一「風邪はひかないほうがいいんだよ。風邪ひいたら、一緒に買物に行けないだろうが」

梢「そうだね…それも嫌だしな…あーあ、残念」

本当に残念そうに肩を落とす梢。

葉一「何が残念なんだ?」

梢「…内緒♪」

葉一「教えろよ、気になるだろうが」

梢「教えたら、私を抱き締めてくれる?」

葉一「はあ?な、何でそうなるんだ」

梢「……何でだろ?」

葉一「オイ…なんだそりゃ。まったく、ホントに風邪ひくぞ。じゃあ俺は部屋に戻るから」

去って行こうとする葉一を、梢が呼び止めた。

梢「葉ちゃん待って!…大事な事忘れてるよ」

そう言って梢は葉一の手を取り、両手で優しく握り締める。

(な、なんだ?何をする気だ?)

梢の手の暖かさを、柔らかさを感じて、葉一の鼓動は早まる。

梢「…おやすみなさい、葉ちゃん」

葉一「あ……お…おやすみ、梢」

葉一はそれだけ言うのがやっとだった。

梢は名残惜しそうに手を放すと、女子寮の方に走り去った。

取り残された葉一は、呆然と握られていた右手を見る。

(…今夜は眠れるかな)

まだドキドキしている葉一。だが、それが何故か心地よいもののように感じる。

葉一も部屋に戻るために、男子寮へ向かう。

遥かな空では、暗い夜空を飾るように星が光り輝いていた。


第7話  完

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