第8話
〔対決〕

葉一の朝は早く、いつも日が昇る頃に必ず目が覚める。だが今日は少し遅かった。

葉一「……マズイ、寝過ごしたか」

昨夜はあれからなかなか眠れなくて、香介と遅くまで喋っていたのだ。

葉一「すぐに起きないとな」

二段ベッドの上から降りて着替える。下のベッドで寝てる香介が寝言で何か言っているが、聞き取れない。葉一は、起こさないようにそっと部屋を出た。

(少し寒いな)

外は風が吹いていた。動きやすいように薄着だから肌寒い。

葉一「体はすぐに暖まるから問題ない。さて、始めるか」

手にした木刀を構え、素振りを始める。最初は型の一つ一つを何回も繰り返す。ひたすら繰り返し、体に動きを染み込ませる。それが技を磨く秘訣だと、葉一は祖父から教わった。

葉一「ふぅ…よし、だいぶ暖まったな」

呼吸を落ち着かせてから、また木刀を構える。葉一の目は真剣だ。今度は素振りではなく、あらゆる剣の型を連続して繰り出す。最初は緩やかに、だが少しずつスピードを上げていく。流れるような動作と足運びは自然で無駄がない。まるで剣の舞だ。

葉一「はっ!はぁっ!はっ!…つぁー!」

最後に鋭い突きを放ち、動きが止まった。

梢「すごーい!カッコイイ!」

いきなり拍手と歓声が上がり、葉一は構えを解いて振り向く。

葉一「おはよう梢。見てたのか」

梢「おはよう。早く目が覚めたから散歩してたの。そしたら、葉ちゃんが剣の練習してるの見えたから」

葉一「朝の日課なんだよ。道場に通ってないからな。腕が鈍らないよう、鍛練は欠かせないんだ」

梢「もしかして毎日?」

葉一「ああ、一日も休んだ事はないぞ」

梢「ホントに!?どうやったらそんなに頑張れるの?」

葉一「さあな。昔から続けてるから、止めるのも嫌だしな。梢も笛を毎日練習してたんだろ?」

梢「…うん、私は葉ちゃんと約束したから」

葉一「そうだったな。……どうかしたのか?」

梢の表情が少し沈んで見えた。

梢「別に何もないけど…早く起きたから眠いのかな。それより、もう少ししたら朝御飯だよ。行こう」

葉一「ああ、これ部屋に置いてから行くよ。ついでに香介も起こしてやるか」

梢は校舎の方へ歩き、葉一は木刀を置きに寮に向かった。



武宮「葉一、今日は空いてるか?」

みんなで朝食を摂っていると、先生が葉一に尋ねた。

葉一「今日ですか?足りない物買いに行くつもりですから、午前中なら空いてますよ。何
かあるんですか?」

武宮「お前と剣の試合をしたいんだ。俺はしばらく忙しくなるんでな。できれば、早いうちにやっておきたい。お前の剣がどんなものか見たいしな」

葉一「…わかりました、いいですよ」

武宮「すまんな。じゃあ11時に武道館でな」

そう言って、食べ終えた先生は食堂から出て行った。

香介「葉一、勝てるんか?」

葉一「わからない。話だけ聞くと手強そうだからな。栞でも歯が立たないんだろう?」

栞「アタシでもって…ひどいな。でも確かに強いよ」

梢「葉ちゃんは毎日練習してるんだから、大丈夫だよ」

葉一「剣を交えてみないと、なんとも言えないけど、とにかく頑張ってみるさ」



約束の時間になり、葉一はみんなと武道館へ来た。そこには既に武宮がいて、木刀を手にしていた。

武宮「おう、来たか。ちょっとばかし早く来たんでな、軽く素振りしてたとこだ」

葉一「…なんだか楽しそうですね」

武宮「そう見えるか?まあ、どうでもいいさ。準備はいいか?」

葉一「いいですよ」

二人は向き合い、試合前の礼をする。

香介「始め!」

互いに正眼に構え、相手を見る。

葉一(隙がない…立っているだけなのに…)

武宮(…こいつは…思ったよりできるな)

栞「何で動かないの?」

香介「動かないんやなくて、動けないんや。互いに様子を探っとる」

梢「頑張って、葉ちゃん」

するといきなり互いに同時に間合いを詰め、剣を打ち合う。二人とも、最初から本気になっているようだ。動きが鋭い。

栞「葉一君押されてるよ。やっぱり先生の方が…」

香介「いや…よう見てみい。おっちゃんは顔は楽しそうでも、目が本気や」

武宮は剣を交えながら、葉一の動きを見切ろうとしていた。

武宮(速い、それに正確だ。朝のあの素振りといい、霧羽の血は伊達じゃない)

一方、葉一は武宮の動きに付いていくので精一杯だ。

葉一(くっ、強い!このままだといつか……ならば!)

葉一は一旦間合いを空けたが、すぐにまた間合いを詰めた。だが先程よりも遥かに速い。

葉一「はあっ!」

上半身をひねり体のバネ活かし、右上段から袈裟掛けに剣を振り下ろす。

霧羽流剣術
壱の太刀〈弧月〉だ。

だが武宮は剣を逆手に構えて、受け止めた。

武宮「やるな、だがまだ甘い!」

葉一「くっ!……駄目か」

両者は再び間合いを空けるが、今度は動かない。

香介「…次で決めるつもりやな。相手の隙を狙っているんや」

栞「動いた方が負けってことね」

梢「葉ちゃん…」

梢は心配そうに葉一を見る。

葉一は極限まで集中し、武宮が隙を作るのを待っていた。

すると、武宮はわざと木刀の切っ先を僅かに下げた。

その刹那、葉一は武宮目掛けて突進した。だが構えは正眼ではなく、左に構えていた。

武宮の右肩目掛けて剣を振る葉一。武宮は先程と同じように、葉一の剣を受け止めたようとする。しかし、葉一は受けられる瞬間に剣を引いて、一歩下がった。武宮の剣は空振り、無防備だ。

葉一「てゃぁーー!!!」

腰溜めに構えた剣を勢いよく突き出す。

霧羽流剣術
弐の太刀〈屠竜〉で勝負に出た葉一。

誰もが葉一の勝ちだと思った。

葉一「………」

武宮「………」

しかし…葉一の剣は武宮の肩を掠め、武宮の剣は葉一の首に寸止めされていた。

何秒、あるいは何分たったのか…武宮が剣を引き、葉一はがっくりと床に膝を突いた。

葉一「…参りました…」

武宮「いい勝負だった、楽しかったよ」

それだけ言うと武宮は去って行った。

(負けた…あれを躱されるなんて…だけど)

確かに負けて悔しいが、葉一は初めて祖父以外の目標を見つけていた。

(次は…負けない!)

第8話  完

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