武宮は武道館を出た後、歩きながら先程の試合を思い出していた。
武宮「……本当に高校生か?アイツ」
武宮の左肩はTシャツが破れていた。葉一が最後に放った〈屠竜〉が掠めていたのだ。
(あの時はなんとか躱せたが…次はわからんな)
すると後ろから声を掛けられた。
葉一「先生!」
武宮「葉一か。どうした、リターンマッチか?」
葉一「いえ、勘弁して下さいよ。聞きたい事があって」
武宮「何だ?…ははーん、さては最後の攻撃が躱された事だな」
葉一「ええ、まあ…。確実に決まったと思ってましたんで。それが躱された上に、自分がやられたわけですから」
武宮「確かにいい攻撃だったよ。相手が俺でなけりゃ決まってただろうな」
葉一「そうですか?…隙を突いたつもりだったんですけどね」
実際は武宮がわざと隙を作って、葉一の攻撃を誘ったわけだが。
葉一「初めて見た技を見切るなんて、先生は凄いですよ」
武宮「残念ながら初めてじゃないんだよ」
葉一「え?それって、もしかして…」
武宮「ああ、俺は霧羽のじいさんとも戦った事があるんだよ。10年くらい前だったかな」
葉一「そうだったんですか。10年前っていえば、俺がじいちゃんの道場に通い始めた頃かな?」
武宮(そんな小さい頃からやってるのか…どうりで…)
武宮「へえ、そうなのか。ま、あん時は俺の負けだったがな。確か弐の太刀〈屠竜〉だったか?最後の技。俺はあれでやられたんでな、その時の事を覚えてたんだよ」
葉一「だから俺の〈屠竜〉を躱せたわけですか?」
武宮「ああ、そうなるな。でも、お前のは構えが逆だったな」
葉一「俺、左の突きは右に比べてやや鈍いんです。だからですよ」
弐の太刀〈屠竜〉は通常、右の構えから相手の左肩に袈裟掛けに振ると見せかけ、一度剣を引き左の突きで攻撃する技だ。葉一の場合はそれが左右逆になっていた。
武宮「なるほど、欠点を改良したわけか。だが、まだ甘いな。剣を引く時は半歩下がるくらいで、突きはもっと踏み込めばいいんだ……ぶつかるくらいの勢いでな」
武宮(もしそれをさっきやってたら…俺は負けてたな)
葉一「……わかりました。忠告はありがたく戴いておきますよ」
武宮「おいおい、素直な奴だな。もしかしたら、悪い形になるかもしれないんだぞ」
葉一「確かに引きを甘くすれば、それだけ危険ですけどね。それは裏を返せば、相手の懐に入りやすいって事ですから」
武宮(技の性質を把握しているわけか。…本物だな)
武宮はそんなやり取りで、葉一の剣がいつか自分を捉える時が来ると理解していた。
武宮「一つ聞いていいか?」
葉一「何ですか?」
武宮「お前のじいさん、霧羽孝影から聞いたんだが…霧羽流剣術の極意は『護る事』だそうだな」
葉一「…はい」
武宮「お前にとっての『護る事』って奴は何だ?」
武宮の問いは、今の葉一にとっては答の無いものだった。葉一は祖父からそれを見つけるように言われていた。だが、まだ見つかっていない…
葉一「…わかりません」
武宮「そうか。なら質問を変えよう…何故、剣を習い始めた?」
葉一「父さんの薦めと、自分自身の剣術に対する興味ってとこです」
葉一(他にも何かあったかもしれないけど…思い出せない)
武宮「そんな理由でか?たったそれだけで、ここまで強くなれるもんかね?俺が言うのもなんだが、お前の強さはかなりのものだぞ。」
葉一「何が言いたいんです?」
武宮「そんな怖い顔するな。つまりだな…お前が剣を習い始めた理由、そこにお前の『護る事』のヒントがあるんじゃないかとね」
葉一「………」
武宮「ま、あくまで俺の推測だ、気にするな。…それに案外、身近にあるかもしれんな」
葉一(身近に?…そうだろうか)
梢「葉ちゃーん!」
振り返ると、梢が走ってやってきていた。
葉一「どうしたんだ?」
梢「午後から出掛けるんでしょ?先生に許可貰わないと」
葉一「そうなのか?」
武宮「ああ。外出届を出さないと、校外に出る事は禁止されてる。でも、今は夏休みだからな。俺に言ってくれればそれでいいぞ。但し、門限の6時は守る事。破ったら夕飯抜きだからな…それに」
ニヤリと口許を歪めて、意味深に言う。
武宮「夜は何かと危険だからな…梢。葉一が狼にならんように気をつけろよ」
梢「?………っ!」
遅れて顔を赤らめる梢、呆れる葉一。
葉一「…恋愛は大いに結構じゃなかったんですか?」
武宮「恋愛は良くても、不純異性交遊は駄目だ」
梢「あまり変わらないような…」
武宮「そんな事ないぞ……っと、もうこんな時間か。とにかく、早目に帰って来いよ」
走り去る武宮を見送る葉一と梢。
葉一「…さ、さて、とりあえず外出の準備しないとな。俺は軽くシャワー浴びるから、ちょっと待っててくれるか?」
梢「うん、わかった。あの丘で待ってるよ」
?「うっぎゃぁぁぁぁ〜!!!」
いきなりの叫び声にビックリする二人。
葉一「……今のは香介…か?」
梢「……たぶん。また栞ちゃんに余計な事言ったのかな…」
その数分前…香介と栞は廊下で話をしていた。
栞「しっかし惜しかったね〜。今日こそ、武宮先生の敗北する姿が拝めるかと思ったんだけどな」
香介「…いつかは勝てるやろ。アイツは強えわ、ホンマに。葉一なら梢ちゃんに相応しい男やろ」
香介はいつになく真面目な表情だ。
栞「アンタ、認めるの?梢の事諦めるわけ?」
香介「まあな。最初は可愛い子やから声掛けただけやったんやけどな…お前に邪魔されて、俺もムキになって何回も梢ちゃんに声掛けたんや。その度にお前にど突かれてたな」
栞「当たり前よ!」
香介「拳を握るなや…それが、いつの間にかお前とそんな風にしてるのも悪かないなと思い始めたんや」
栞「香介…アンタ…」
にっこり笑顔になる栞。
栞「…そんなにアタシの手刀食らいたいんだ♪」
香介「なっ!?ま、待つんや!そんな事やなくてやな…」
栞「照れなくてもいいって♪」
香介「照れてないわ!やめんかー!」
逃げる香介、追いかける栞。
栞「必殺!!」
香介「うっぎゃぁぁぁぁ〜!!!」
栞の手刀が直撃して…香介の悲鳴は学校中に響いた…
第9話 完
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