第13話
〔明日から〕

夜凪「二人共ありがとう。おかげで助かったよ」

梢「いいえ楽しかったですから。ね、葉ちゃん」

葉一「そうだな。しかしビックリしましたよ。来てみたらお客さんで一杯だなんて」

夜凪「あなた達が帰ってからよ。口コミでこの店の噂が広まったらしくて…私も驚いたわ」

夜凪さんは疲れた顔に笑顔を浮かべた。

葉一達が店を出る時に居た客が、友人・知人に『eternity』の事を伝えたらしい。主に地元の女子中学生に広まったので、来た客は女の子ばかり。

梢「この調子なら明日からも、お客さんで一杯になりますね」

夜凪「そうなったら嬉しいんだけど…さすがに一人は辛いわね」

確かに一人で切盛するのは大変だろう。

葉一「だったら、俺達が明日から手伝いに来ますよ」

梢「それいいね!」

夜凪「そんな!今日だって手伝ってもらったのに…明日からもなんて二人に悪いわ」

梢「仕事楽しかったんです。是非やらせてください」

夜凪「でも…」

葉一「俺も梢も、夜凪さんを手伝いたいんです。それに、バイト代とかは要らないですよ」

夜凪「そんなの駄目よ!わざわざ手伝ってくれるのに、バイト代まで無しなんて…そんな事できないわ」

葉一「じゃあ、こうしましょう。俺達が手伝う代わりに、夜凪さんは梢の料理の先生になってください。いいだろ梢?」

梢「うん。夜凪さん、私に料理教えて下さい。お願いします」

頭を下げる梢に、夜凪は困り顔だ。

夜凪「そんな事でいいの?それだと、葉一君には何も無いわよ?」

葉一「梢が料理出来るようになれば、俺が助かりますんで」

梢「えっ!?…そ、それって…」

葉一の何気ない一言で、梢の顔は赤く染まった。

夜凪「あら、それは二人の将来の話?」

葉一「い、いや…そうじゃなくて!梢が料理が出来るようになれば、夏休みの晩ご飯が助かるなぁって意味ですよ…」

梢の予想外の反応に、葉一は焦って否定した。

夜凪「はいはい、そういう事にしておきましょ。…じゃあ、明日からお願いできるかな?」

梢「はい!よろしくお願いします」

葉一「とりあえず、何時に来ればいいですか?」

夜凪「開店が午前11時で閉店は午後9時だから、10時に来てくれる?服装とかはこっちで用意するから」

葉一「わかりました。でも、寮の門限が6時なんです。閉店までは無理ですよ」

夜凪「それは仕方ないわね。じゃあ、5時までお願いできるかしら?」

梢「はい…って、葉ちゃん大変!時間!」

時計を見ると、5時30分を過ぎていた。バスの時間まで5分しかない。これに乗り遅れたら門限に間に合わなくなる…

葉一「梢、行くぞ!」

梢「うん!夜凪さん、また明日!」

夜凪「気を付けてね!」

葉一「それじゃ!」

荷物を持って、脱兎の如く走る二人だった…



どうにかバスに乗り、門限に間に合った葉一と梢は、夕食の場で今日の事を話した。

香介「喫茶店でバイトか。ええなぁ」

栞「でも、バイト代要らないって…いいの?」

葉一「いいんだよ別に。夜凪さんに迷惑は掛けられないからな」

梢「代わりに私が夜凪さんに、料理を教わるの」

香介「そうなんか。でも、武宮のおっちゃんがなんて言うやろか」

栞「この学園バイト禁止だもんね」

葉一「夏休みの間だけだし、タダならバイトとは言わない。ボランティアさ」

梢「とにかく、話してみようよ」

武宮は仕事があるからと、夕食には顔を出してなかった。葉一と梢は話をするために、武宮の居る図書館に行った。

武宮「…なるほど。喫茶店でボランティアってわけか。バイトならともかく、無償奉仕ならそれほど問題はないな。門限さえ守れば構わんぞ」

葉一「ありがとうございます」

武宮「ところで、その喫茶店…今日オープンしたのか。なんて名前なんだ?」

葉一「eternityです」

武宮「eternity?変わった名前だな。意味は…」

葉一「永久とか、久遠ていう意味ですよ」

武宮「久遠?…そうか」

途端に何やら考え込む武宮。葉一と梢は何の事かさっぱりだ。

梢「どうかしました?」

武宮「いや、何でもない。それより、明日は俺も一緒に行くぞ」

葉一「まさか、夜凪さん目当てじゃないでしょうね?」

武宮「ばぁか、俺はお前達を預かる身なんだ。何かあったらただじゃすまないんだぞ?」

梢「でも夜凪さん美人だから。先生も男の人だし…」

武宮「ん?俺もって、誰か口説いてた奴でもいたのか?」

梢「ええ…いました」

梢の視線が冷たい…

葉一「口説いてないって言っただろうが」

梢「どうだか」

武宮「痴話喧嘩なら他でやれ…俺は忙しいんだ」

葉一「そういえば、先生は何してるんですか?」

武宮「ちょっとした歴史に関する調べ物だ。今のうちにやっておいた方が、後々助かるんでな」

葉一「そうですか。あれ、この本は?」

葉一は、机の上にある一冊の本に目が止まった。

梢「『月夜恋歌』?」

葉一「かなり分厚い本だな。どんな内容なんですか?」

武宮「それは架空の歴史ものだな。悲恋を題材にした話になってる」

梢「へえ…読んでみたいかも」

武宮「あと二冊あった筈だ。借りるのは構わんが…この学校にしかない貴重な本だから気を付けろよ」

葉一「市販されてないんですか?」

武宮「ああ、作者不明なんでな。ここに昔からあるらしい」

葉一「そうですか…俺も読んでみるかな」

目立つ表紙なので、すぐに見つかった。

葉一「じゃあ借りていきますね」

武宮「ああ。明日の事もあるからな、早目に寝ろよ」

梢「はい。それじゃ失礼しました」

図書館を出て行く二人を尻目に、呟く。

武宮「やはり、そういう運命なのか?…久遠」

第13話  完

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