武宮の運転する車に乗り『eternity』へ向かう、葉一と梢。
梢「ふぁ〜〜…あ」
派手な欠伸をする梢に、葉一は呆れた表情を見せた。
葉一「昨夜は何時に寝たんだ?」
梢「夜中の1時…読んでたら気になっちゃって」
葉一「やっぱりか。今日は夜凪さんの店を手伝うんだから、早く寝ないと駄目だろう」
武宮「そうだぞ。それに寝不足は美容の大敵だ。若いからって安心してると、ひどい目に合うぞ」
梢「はぁい…それで葉ちゃんはどこまで読んだの?」
葉一「一章は全部読んだよ。一度に読むと楽しみがなくなるからな。ちなみに寝たのは10時だ」
梢「私は二章を読み終わったよ。葉ちゃん寝るの早いね」
葉一「昨日は大変だったからな」
葉一と梢が読んでいるのは、昨日図書館で借りた『月夜恋歌』だ。二人共、かなり気に入ったらしい。
梢「そうだね…」
葉一「あ、ここですよ」
葉一の案内で車を止める武宮。
武宮「この店か。ちょっと狭くないか?」
葉一「確かに小さいですけど、中はいい感じですよ」
ドアを開けて店内に入る三人を、明るい声が出迎えた。
夜凪「おはよう♪あら、そちらはどなた様?」
武宮「初めまして。俺は明星学園で教師をやってます、武宮将悟です。こいつらの保護者みたいなものですよ」
軽く礼をする武宮に、夜凪も礼を返す。
夜凪「あらあら、二人の先生でしたか。初めまして、私は東雲夜凪です。この喫茶店の店主ですわ。といっても、昨日から始めたばかりですけど」
武宮「葉一達から聞いてますよ。しかし良い店ですね。内装も見事だし、なによりこんな美人がいらっしゃるとは」
夜凪「あら、お上手ですね。褒めても何も出ませんよ?」
楽しそうに話す二人を呆れ顔で見る、葉一と梢。
葉一「…やっぱり口説いてるじゃないか」
梢「うん…しかも、夜凪さんもまんざらじゃなさそうだし」
葉一「ここに香介と栞が来てたら、大騒ぎ間違い無しだな」
香介と栞は、学園で留守番を任されていた。香介は『俺も一緒に行くんや』と騒いでいたが、栞の説得?によりおとなしくなった。
武宮「こいつらが店を手伝うと聞いたんで、挨拶ついでに伺わせてもらったんですが…これなら、二人を預けても大丈夫みたいですな」
夜凪「葉一君と梢ちゃんは、責任を持って預からせていただきます。私としては、二人が手伝ってくれると言ってくれたので助かります」
武宮「こき使ってやって下さい。特に葉一は実戦剣術の使い手ですから、ボディーガードにもなりますよ」
夜凪「そうなの?凄いわね」
葉一「どうも。でも、それは先生も同じでしょう。俺達と一緒に働きませんか?」
武宮「馬鹿言うな。俺は今から行く所があるんだから、そんな暇は無い」
夜凪「そうですか…残念ですね」
武宮の言葉に夜凪は残念そうな顔をした。
武宮「い、いや…用が無ければ手伝っても構わないので…もし時間が余ったら、帰りにでも顔を出しますよ」
夜凪「本当ですか!?お待ちしてますわ」
一転して、夜凪は心底喜んでいるかのような笑顔になった。
武宮「光栄ですよ。それでは俺はこれで。二人とも、頑張れよ」
お店を出て行く武宮を見送りに、一緒に外へ出る夜凪。
葉一「二人共、すっかり仲良くなってるな」
梢「そうだね…でも夜凪さん、もしかしたら」
葉一「夜凪さんがどうかしたのか?」
そこに戻って来た夜凪。
夜凪「さあ、時間が無いから早く準備するわよ」
夜凪は元気一杯という感じでテキパキと指示を出す。
夜凪「それじゃ、お願いね」
葉一「了解!」
梢「はい♪」
それぞれが作業を始める。あまり時間がないのだが、手抜きするわけにはいかない。
葉一「窓拭きは終わりっと」
葉一は掃除用具を片付けて、今度は箒を持って外へ出る。しばらくすると、梢が外に出て来た。
梢「店の中は終わったから、手伝うね」
葉一「ああ、頼む」
葉一が箒で掃いてゴミをまとめ、梢が塵取で回収する。
梢「ねえ、葉ちゃん」
梢は手を動かしながら、葉一に話しかけた。
葉一「何だ?」
梢「夜凪さんと武宮先生の事なんだけど」
葉一「二人がどうかしたのか?」
梢「夜凪さん、探している人がいるって昨日言ってたよね。あれって…武宮先生の事じゃないかな?」
手を止める葉一。
葉一「まさか。もし二人が知り合いだったら、初めましてなんて言わないだろ」
梢「でも、夜凪さん…先生が手伝わないって言ったら、本当に残念そうだったし。先生が来るって言ったら、すごく喜んでたじゃない」
葉一「それは夜凪さんが先生に好意を持ってるからじゃないのか?」
梢「それは…私もそう思うよ…でも…大切な人に会えないのって…本当はすごく辛いんだよ?」
葉一「梢…」
梢「私だって…辛かったよ……」
今にも泣きそうな顔をする梢を、葉一は優しく抱き締めた。
梢「あっ……」
葉一「ごめんな…でも、俺はどこにも行かないよ。先生と夜凪さんも大丈夫さ、心配ないよ」
梢「うん…ゴメンね」
葉一の体から伝わる温もりが、梢を安心させた。
その頃、夜凪は料理の下拵えをしながら武宮の事を考えていた。
夜凪(どうしてだろう、顔も声も…性格だって全然違うのに。まるであの人みたい…一緒にいると安心する…護ってくれてるって思える……会いたいよ…)
さらにその頃。武宮は車を止めて、とある場所に来ていた。
武宮(やはり、夜凪さんはあなたの娘なのか?だとしたら……)
武宮は、墓の前に真剣な表情で立ち尽くしていた。
武宮「これが運命なのか?……いや、今度こそ護ってみせる!」
何を…誰を護るのか、運命とは何なのか?武宮だけが知っている……いや、武宮さえも全てを知らない『何か』は、確実に動き始めていた…
第14話 完
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