梢「アイスコーヒー二つですね。少々お待ち下さい」
葉一「夜凪さん、カルボナーラと生野菜サラダお願いします」
夜凪「はーい。葉一君、フルーツパフェお願いできるかな?」
葉一「いいですよ。…いらっしゃいませ!」
葉一の元気な声が店内に響く。今は昼食時間なので、とても忙しい。しかも予想以上に客が多いので予備の客席を一組出しているが、それでも開店してからずっとほぼ満席の状態が続いている。
夜凪「お疲れ様。ちょっと休憩しましょう」
なんとか忙しい時間帯を乗り切り、ようやく一息つく。
葉一「ええ、もう腹ぺこで死にそうです…」
梢「それは大袈裟だよ」
夜凪「くすっ♪…はい、カレーでいいかな?私の奢りだよ」
葉一「すいません、遠慮無くいただきます」
梢「美味しそう、いただきま〜す」
差し出されたカレーを一口食べて…
葉一「く〜っ、この適度な辛さと野菜の甘味が絶妙にマッチしてて…美味しい!」
梢「ホントに美味しい!お客さんいいな〜、こんなに美味しいもの食べられるなんて」
葉一「今食べてるだろうが…」
夜凪「もう、褒めすぎだよ二人とも。それにしても…葉一君の料理、好評だったわね。デザートまで作れるなんて、男の子なのに凄いんだね」
葉一「大した事ないですよ。母さんに仕込まれただけですから」
葉一は、家事全般を母に教えられたのだが、その際に役に立つからとお菓子の作り方まで叩き込まれた。厳しく指導されたおかげなのか才能があったからのか、葉一はすぐに上達した。
葉一「かなり大変でしたけど、そのお蔭でこうして役に立ってますから」
夜凪「家事全般は完璧、頭も良い、とても強くて、おまけにカッコイイ。世の女の子達が放っておかないわね」
葉一「そ、そんなに凄くないですよ!」
夜凪「またまた、謙遜しちゃって。学園でモテモテなんでしょ?」
葉一「この街には一昨日来たばかりなんですよ。転校して来たんですけど…前の学校でも別に何も無かったですよ」
夜凪「あら、見る目が無いわねぇ。ね、梢ちゃん。葉一君てカッコイイよね?」
梢「え!?……あ…は、はい…」
考え事をしていたのか、梢は驚いて答えた。
葉一「夜凪さんだって、美人じゃないですか。さっきだって男の客に声掛けられてたし」
夜凪「そうなのよね…何であんなにしつこいのかしら!私は大丈夫だけど、梢ちゃんは大変だったわね」
梢「葉ちゃんが助けてくれましたから…」
お店には昨日と違い、男性の客も何人か来ていた。そのほとんどが、夜凪と梢が目当てである。二人とも容姿・性格共にかなり良いから、男が群がるのも無理はない。夜凪はそんな連中をまともに相手にせず、適当な返事で誤魔化したり、嘘(半分は真実)を言ったりしていた。
しかし梢は違った。どうしても、ハッキリと断れないのだ。普段は栞がそんな連中を追い払っていたから、慣れてないのだろう。夜凪や葉一が機転を利かせてガードしていたのだが…一人だけ質の悪い男がいて、梢を無理やり遊びに連れて行こうとしたのだ。葉一はすぐさまその客を諌めようとしたが、男は邪魔な葉一を排除しようと掴み掛かった。が、逆に葉一に抑えられ店から叩き出された。
葉一「ナンパするのは勝手だけど、時と場所を選んでほしいよ…」
夜凪「そうよね…そうだ!『店内でのナンパ行為はお断り』って張り紙しようか?」
葉一「いいのかな?…まあ、あんなのがまた来たら面倒だしな」
そんな葉一の言葉に、浮かない表情になる梢。
夜凪はその様子を見て、少し考え込むそぶりを見せた。
葉一「ふぅ、ごちそうさま。美味しかったです」
カレーを平らげた葉一は満足の表情だが、梢の顔は今だに沈んでいた。
夜凪「ありがとう♪そうだ。葉一君、おつかい頼めるかな?」
葉一「いいですよ。何買ってくればいいんですか?」
夜凪「欲しい物はここに書いてあるから、お願いね」
買物リストが書かれた紙と財布を受け取り、葉一は立ち上がる。
葉一「それじゃ、行ってきます」
夜凪「急がなくてもいいからね。気を付けて行って来て」
夜凪は葉一が出て行くのを確認してから、ドアの看板を『お〜ぷん』から『くろ〜ず』に変えると、梢の隣に座り、話しかけた。
夜凪「元気無いわね…どうかしたの?」
梢「別に…」
夜凪「葉一君の事、好きなんでしょ?」
梢「な、何でっ!?」
夜凪「何でって…見てれば判るわよ。梢ちゃん、葉一君しか見てないもの」
梢「…バレバレですね」
水を一口飲み、梢は話し始めた。
梢「葉ちゃんは昔から私に優しくて、小さい頃いつも助けてくれました。そんな葉ちゃんを好きになるのに、時間はかからなかったです。私の家が引っ越して、葉ちゃんとは離れ離れになったけど、それでもずっと好きでした」
夜凪「あんなに優しいんだもんね。当然だよ」
夜凪「でも、不安なんです。もしかしたら、葉ちゃんは私の事好きじゃないのかな…」
夜凪「そんな事ないと思うけど…今日だって、店の前で抱き合ってたでしょ?」
梢「み、見てたんですか!?」
夜凪「あんな場所で大胆ねぇ、ここからでも見えたわよ」
顔を真っ赤にする梢を、面白そうに見る夜凪。
梢「ふぅ…でも、そうなんですよね。口では文句いいながら、優しくしてくれるんです。でも…それって小さい頃からの関係が、そのまま今も続いてるみたいで…葉ちゃんにとって、私は只の幼馴染みでしかない様な気がして…」
夜凪「幼馴染みにはありがちな事ね。いつも一緒だから、それが当たり前になってるのよ」
梢「私、葉ちゃんとある約束をしたんです」
夜凪「それって、また会えるっていう約束?」
梢「それとは別に、もう一つあるんです。離れ離れになる前に交わした、大切な約束が…」
梢は、とても大切な思い出を夜凪に話した。
第15話 完
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