第16話
二人の気持ち

葉一は夜凪に頼まれた買物リストを見ながら、近くのスーパーに向かっていた。

葉一「買う物は少ないけど…結構遠いな」

げんなりする葉一だが、ふと梢の事が気にかかり立ち止まった。

葉一(梢の奴、何か変だった。やっぱり怖かったんだろうな…)

仕事中のあの出来事が梢を不安にさせていると考えた葉一は、自分が情けなくなった気がした。

葉一(助けてはやれたけど…あれじゃ護ってやれた事にならないよな)



一方、『eternity』では…梢と夜凪が話を続けていた。

夜凪「…そうだったんだね。だから葉一君はあんなに強くなったんだ」

梢「はい…でも葉ちゃんは、もしかしたら忘れているのかもしれない…」

夜凪「どうしてそう思うの?」

梢「葉ちゃんと再会してから、約束の話をする機会は何度もあったんです。でも何も言ってくれなくて…私からも話してみようかと思ったんですけど…怖くて」

夜凪「梢ちゃん…」

梢「葉ちゃんにとって私は只の幼馴染みで…私の事好きじゃないのかなって考えると…」

辛いんです…そう呟いた梢の瞳から、大粒の涙が溢れて流れた。

夜凪「大丈夫だよ。葉一君が梢ちゃんの事好きじゃないなんて、絶対にない。だって、梢ちゃんが葉一君しか見てないのと同じで…葉一君も梢ちゃんしか見てないもの」

夜凪は梢の頭を抱き寄せると、優しく囁いた。

梢「えっ?で、でも葉ちゃんが女の子と話してた時、好きな人はいないって…」

梢と夜凪が男性客に人気があるのと同じで、葉一もまた女性客に大人気だった。葉一目当てで来た客も少なくない。

夜凪「あそこで梢ちゃんの事言ったら、大騒ぎ間違い無しよ。だから嘘吐いたの」

梢「だとしても…どうして、私との約束を守ってくれないんですか?」

夜凪「それは…そうね。まだ自信が無いんじゃない?」

梢「自信?」

夜凪「そう。梢ちゃんとの約束を守るには、自分はまだ未熟だって思ってるの。だから、言えないのよ…梢ちゃんが好きだって」

梢「葉ちゃんが私の事を好き……そう…なのかな……」

夜凪「きっとそうよ!お姉さんの御墨付きだから、信用しなさい♪」

梢「…はいっ!」

涙を拭い、梢は笑顔を浮かべた。

夜凪「明日にでも、葉一君と話をしてみたら?」

梢「でも…」

夜凪「このままだと、いつまで経っても変わらないよ。葉一君と、自分の気持ちを信じて…ね」

梢「そうですね…怖いけど、頑張ってみます。夜凪さん、ありがとうございます」

夜凪「いいのよ、二人の事応援してるから」

自分の悩みが一段落した梢は、もう一つ気になっていた事を思い出した。

梢「ねえ、夜凪さん。一つ聞いていいですか?」

夜凪「なぁに?」

梢「夜凪さんは、武宮先生の事どう思ってますか?」

今度は夜凪が顔を真っ赤にする番だった。

夜凪「なななな、何言うのよいきなり!」

梢「だって先生と話してた時の夜凪さんは、先生しか見てなかったから」

夜凪「そ、そうだったかな…別に意識してたわけじゃなかったのに」

梢「もしかして、夜凪さんが探してる人って…武宮先生ですか?」

夜凪「…自分でも判らないの」

梢「判らないって、どういう事なんですか?」

夜凪「武宮先生と私が探してるあの人は全然違うの…顔も声も…でもね、武宮先生と話をしてたらあの人と一緒にいる様な気がして。だから、判らなくなっちゃった…」

梢「好きなんですか?…その人の事」

夜凪「…好きというか、憧れかな。もう、遠い昔の事みたいで…あの人の事、よく覚えてないんだけどね」

遠い目をして話す夜凪は、何を想うのだろうか…

夜凪「武宮先生といると、あの人といるのと同じ様な気持ちになるの…私、どうしたらいいのかな?」

切ないような表情を浮かべる夜凪。

梢「夜凪さんこそ、先生と話してみたらいいんじゃないですか?」

夜凪「やっぱりそうだよね…それしかないか。私はまだ武宮先生の事をよく知らないし」

梢「そうですよ。もっとお互いの事を知るべきです…私と葉ちゃんみたいに」

夜凪「あなた達が羨ましいわ…あ、そろそろ葉一君が帰って来る頃かな?…梢ちゃん、少し奥で休んでて」

梢「え…どうして?」

夜凪「私が葉一君と話をしてみるわ。梢ちゃんがいたら、正直に話してくれないだろうし」

梢「分かりました…お願いします」

梢はカウンターの奥にある部屋へと行く。夜凪がドアの看板を「お〜ぷん」に戻すと、程無くして葉一が帰って来た。

葉一「ただいま…あれ、梢はどこに?」

夜凪「気分が悪いみたいで、裏で休んでるわ」

葉一「えっ!?やっぱり今日の事が…くそっ!」

夜凪(本当に梢ちゃんが心配なのね。葉一君にそこまで想ってもらえるなんて…幸せ者よね)

夜凪「大丈夫よ、軽い貧血だから心配無いわ。それより、葉一君に話があるんだけど…」



5時を過ぎた頃、客もいないので葉一と梢は帰り支度をしていた。

梢「じゃあ、お疲れ様でした」

夜凪「うん、お疲れ様。あ、明日は定休日だから、ゆっくり休みなさい」

梢は夜凪の言葉の意味を察した。

梢「はい♪」

葉一「それじゃ、失礼します」

eternityを出て、バス停まで歩く二人。

葉一は歩きながら、夜凪との話を思い出して考え込んでいた。

葉一(強くなった理由か…なんで先生と同じ事聞くんだろ)

自分の一番の悩みの種だから、答えるのが辛い。

葉一(そんな事…聞かれてもな)

溜め息を吐く葉一。

梢「どうしたの?」

葉一「いや、何でもないよ。…それより体、大丈夫か?」

梢「うん…心配かけてゴメンね」

葉一「…今日は早く寝ろよ」

梢「…うん」

葉一が自分を心配してくれている…梢はその事を嬉しく感じて、葉一に寄り添った。

第16話  完

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