葉一は夜凪に頼まれた買物リストを見ながら、近くのスーパーに向かっていた。
葉一「買う物は少ないけど…結構遠いな」
げんなりする葉一だが、ふと梢の事が気にかかり立ち止まった。
葉一(梢の奴、何か変だった。やっぱり怖かったんだろうな…)
仕事中のあの出来事が梢を不安にさせていると考えた葉一は、自分が情けなくなった気がした。
葉一(助けてはやれたけど…あれじゃ護ってやれた事にならないよな)
一方、『eternity』では…梢と夜凪が話を続けていた。
夜凪「…そうだったんだね。だから葉一君はあんなに強くなったんだ」
梢「はい…でも葉ちゃんは、もしかしたら忘れているのかもしれない…」
夜凪「どうしてそう思うの?」
梢「葉ちゃんと再会してから、約束の話をする機会は何度もあったんです。でも何も言ってくれなくて…私からも話してみようかと思ったんですけど…怖くて」
夜凪「梢ちゃん…」
梢「葉ちゃんにとって私は只の幼馴染みで…私の事好きじゃないのかなって考えると…」
辛いんです…そう呟いた梢の瞳から、大粒の涙が溢れて流れた。
夜凪「大丈夫だよ。葉一君が梢ちゃんの事好きじゃないなんて、絶対にない。だって、梢ちゃんが葉一君しか見てないのと同じで…葉一君も梢ちゃんしか見てないもの」
夜凪は梢の頭を抱き寄せると、優しく囁いた。
梢「えっ?で、でも葉ちゃんが女の子と話してた時、好きな人はいないって…」
梢と夜凪が男性客に人気があるのと同じで、葉一もまた女性客に大人気だった。葉一目当てで来た客も少なくない。
夜凪「あそこで梢ちゃんの事言ったら、大騒ぎ間違い無しよ。だから嘘吐いたの」
梢「だとしても…どうして、私との約束を守ってくれないんですか?」
夜凪「それは…そうね。まだ自信が無いんじゃない?」
梢「自信?」
夜凪「そう。梢ちゃんとの約束を守るには、自分はまだ未熟だって思ってるの。だから、言えないのよ…梢ちゃんが好きだって」
梢「葉ちゃんが私の事を好き……そう…なのかな……」
夜凪「きっとそうよ!お姉さんの御墨付きだから、信用しなさい♪」
梢「…はいっ!」
涙を拭い、梢は笑顔を浮かべた。
夜凪「明日にでも、葉一君と話をしてみたら?」
梢「でも…」
夜凪「このままだと、いつまで経っても変わらないよ。葉一君と、自分の気持ちを信じて…ね」
梢「そうですね…怖いけど、頑張ってみます。夜凪さん、ありがとうございます」
夜凪「いいのよ、二人の事応援してるから」
自分の悩みが一段落した梢は、もう一つ気になっていた事を思い出した。
梢「ねえ、夜凪さん。一つ聞いていいですか?」
夜凪「なぁに?」
梢「夜凪さんは、武宮先生の事どう思ってますか?」
今度は夜凪が顔を真っ赤にする番だった。
夜凪「なななな、何言うのよいきなり!」
梢「だって先生と話してた時の夜凪さんは、先生しか見てなかったから」
夜凪「そ、そうだったかな…別に意識してたわけじゃなかったのに」
梢「もしかして、夜凪さんが探してる人って…武宮先生ですか?」
夜凪「…自分でも判らないの」
梢「判らないって、どういう事なんですか?」
夜凪「武宮先生と私が探してるあの人は全然違うの…顔も声も…でもね、武宮先生と話をしてたらあの人と一緒にいる様な気がして。だから、判らなくなっちゃった…」
梢「好きなんですか?…その人の事」
夜凪「…好きというか、憧れかな。もう、遠い昔の事みたいで…あの人の事、よく覚えてないんだけどね」
遠い目をして話す夜凪は、何を想うのだろうか…
夜凪「武宮先生といると、あの人といるのと同じ様な気持ちになるの…私、どうしたらいいのかな?」
切ないような表情を浮かべる夜凪。
梢「夜凪さんこそ、先生と話してみたらいいんじゃないですか?」
夜凪「やっぱりそうだよね…それしかないか。私はまだ武宮先生の事をよく知らないし」
梢「そうですよ。もっとお互いの事を知るべきです…私と葉ちゃんみたいに」
夜凪「あなた達が羨ましいわ…あ、そろそろ葉一君が帰って来る頃かな?…梢ちゃん、少し奥で休んでて」
梢「え…どうして?」
夜凪「私が葉一君と話をしてみるわ。梢ちゃんがいたら、正直に話してくれないだろうし」
梢「分かりました…お願いします」
梢はカウンターの奥にある部屋へと行く。夜凪がドアの看板を「お〜ぷん」に戻すと、程無くして葉一が帰って来た。
葉一「ただいま…あれ、梢はどこに?」
夜凪「気分が悪いみたいで、裏で休んでるわ」
葉一「えっ!?やっぱり今日の事が…くそっ!」
夜凪(本当に梢ちゃんが心配なのね。葉一君にそこまで想ってもらえるなんて…幸せ者よね)
夜凪「大丈夫よ、軽い貧血だから心配無いわ。それより、葉一君に話があるんだけど…」
5時を過ぎた頃、客もいないので葉一と梢は帰り支度をしていた。
梢「じゃあ、お疲れ様でした」
夜凪「うん、お疲れ様。あ、明日は定休日だから、ゆっくり休みなさい」
梢は夜凪の言葉の意味を察した。
梢「はい♪」
葉一「それじゃ、失礼します」
eternityを出て、バス停まで歩く二人。
葉一は歩きながら、夜凪との話を思い出して考え込んでいた。
葉一(強くなった理由か…なんで先生と同じ事聞くんだろ)
自分の一番の悩みの種だから、答えるのが辛い。
葉一(そんな事…聞かれてもな)
溜め息を吐く葉一。
梢「どうしたの?」
葉一「いや、何でもないよ。…それより体、大丈夫か?」
梢「うん…心配かけてゴメンね」
葉一「…今日は早く寝ろよ」
梢「…うん」
葉一が自分を心配してくれている…梢はその事を嬉しく感じて、葉一に寄り添った。
第16話 完
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||