葉一と梢は学園に戻る坂道を、腕を組んで歩いていた。
梢「るん♪朝の風って気持ちいいね」
葉一「ああ。しかしな…梢。手を繋いだり、腕組んだりは…学園内では無しだぞ」
梢「えぇー!?別にいいじゃない、恋人なんだから」
葉一「恥ずかしいだろうが!それに、だ…栞と香介にからかわれるのは勘弁してほしい」
梢「…もうっ、仕方ないなぁ〜、その代わり!」
葉一「ん?」
梢「夏休みの間は、いつも一緒だよ?」
葉一「…お安いご用だ」
幸せそうに笑う二人。だが学園の門をくぐると、そこには武宮が立っていた。
武宮「やっと来たか…勝負だ葉一」
武宮は手にしていた木刀を葉一に放り投げた。
葉一「っと…何ですか、朝からいきなり」
武宮「問答無用、本気で来い!」
突然の出来事に戸惑っていたが、武宮の目を見た葉一は剣を構えた。
梢「葉ちゃん!」
葉一「離れていろ…大丈夫、今度は負けないよ」
親指を立てて、梢に微笑む葉一。
梢「うん…頑張ってね。信じてるよ」
少し離れた所にいる栞と香介を見つけた梢は、二人の所まで駆け寄った。
梢「武宮先生は一体どうしたの?いきなり勝負だなんて…」
栞「アタシ達だって知らないわよ。何考えてんのかしら」
香介「あのおっちゃんの事やから、何か意味があるんやないか?」
どうやら、誰も武宮の思惑を知らないらしい。
葉一と武宮はお互いに剣を構え、相手の目を見ている。そして一陣の風が吹いた時…二人は同時に動いて剣を交えた。
武宮(以前と違う…太刀筋に迷いが無い!)
葉一(さすがにやる…だが、負けるわけにはいかない!)
最初から本気で剣を交える二人の攻防は果てしなく続き、見ている方は瞬き一つ出来なかった。
間合いを取る両者。今度は構えたまま動かない。
武宮(前と同じでは俺には勝てんぞ。さあ、どうする!?)
葉一(弧月や屠竜はもう通用しない。でもあの技なら…勝てる!)
葉一は弧月の構えで武宮に向かって行く。
武宮「その技は通用せんぞ!」
武宮は攻撃を受け流して葉一の態勢を崩す気だ。
葉一「前と同じだと思うなぁっ!」
弧月を放つ葉一。だが武宮に受け流され、剣を逸らされた。
武宮(む?手応えが…これは!?)
受け流されて態勢を崩した葉一は…既に次の一撃を放とうとしていた。
武宮(な…早すぎる!)
何とか次の攻撃も受け流したが、葉一はすぐに次の一撃を放ってくる。
武宮(何だ?先程までと動きが違う!?)
栞「あんなに攻撃してるのに、全然当たらないよ!」
香介「いや…違う」
栞「違うって、何が?」
香介「あれだけ攻撃を受け流されていれば、普通は態勢を崩してしまうんや。せやけど葉一は違う。ちっとも崩れてへん。それどころか、すぐに次の一撃を打ち込んどる」
香介の言う通りだった。葉一は受け流される事なく、流れに任せて体を動かしている。動きに無理も無駄も無い…葉一の剣は風の様に捉えどころのない、鮮やかな軌跡を描いていた。
霧羽流剣術
参の太刀『烈風』の前に武宮は翻弄されてしまっていた。
武宮(くっ…まるで、俺の方が葉一に踊らされているみたいだ。このままだといつかは…!)
業を煮やした武宮は、鋭い一撃を葉一の首元に放った。
栞「あっ、危ない!」
だが、葉一は軸足を中心にして体を回転させて、武宮の一撃を躱した。そしてそのまま、武宮の胴を狙って最後の一撃を放った。
葉一「はあっ!!」
一瞬の出来事だった…武宮の剣は空を斬り、葉一の剣は武宮の脇腹に寸止めされている。
武宮「…俺の負けだな、完敗だよ」
葉一「ふうっ、ありがとうございました!」
二人は剣を引いた。
武宮「…どうやら、見つけたみたいだな」
葉一「はい、お陰様で」
武宮「俺は何もしてないさ…だが、いい目になったな。ここに来た時とは大違いだ」
葉一「そうですか?」
武宮「ああ。一人前の男の目だ」
武宮の言葉に、葉一は晴れ晴れとした気持ちになった。一人前と認められたのだから…
梢「葉ちゃ〜ん!」
梢は走って来た勢いで、そのまま葉一に抱き付いた。
葉一「おわっ!…っと…危ないだろ」
梢「だって、嬉しいんだもん!葉ちゃんが先生に勝ったんだよ!」
葉一「ありがとう、梢のお蔭さ」
梢「勝てたのは葉ちゃんの力だよ…私は何もしてないから」
葉一「そんな事ないさ。梢がいたから俺は頑張れたんだよ」
梢「葉ちゃん…」
見つめ合う二人は…
栞「熱いねぇ〜二人共」
香介「すっかりラブラブになってもうて…何があったんやろなぁ?」
せっかくのムードは突然の冷やかしにぶち壊された…
葉一「い、いきなり何だよ…」
栞「あらら?葉一君…唇に口紅が付いてるよ」
葉一「えっ!?」
思わず手を口に当ててしまった葉一。
栞「や〜っぱりキスしたんだねぇ」
あっさりと誘導尋問に引っ掛かる葉一…
梢「うぇっ!?あああ、そ、それはその」
葉一「い、いや別にな、その」
栞「照れなくてもいいわよ。おめでとう葉一君、梢♪」
梢「もうっ…」
香介「梢ちゅわ〜ん!俺にも熱っついキスして〜な…ぐがっぶぉ!」
梢に飛び掛かろうとした香介は…栞ラリアットと葉一のボディブローを食らって、崩れ落
ちた…
栞「…もうアタシがいなくてもいいみたいね」
葉一「そんな事ないさ。でも、今まで梢を護ってくれてありがとう」
栞「いえいえ、どういたしまして♪」
おどる栞に、葉一も梢も笑っていた。
武宮(護るべき人…か)
武宮は夜凪の長い髪を思い浮かべ、誰かの面影を重ねていた…
第19話 完
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