第19話
対決…再び

葉一と梢は学園に戻る坂道を、腕を組んで歩いていた。

梢「るん♪朝の風って気持ちいいね」

葉一「ああ。しかしな…梢。手を繋いだり、腕組んだりは…学園内では無しだぞ」

梢「えぇー!?別にいいじゃない、恋人なんだから」

葉一「恥ずかしいだろうが!それに、だ…栞と香介にからかわれるのは勘弁してほしい」

梢「…もうっ、仕方ないなぁ〜、その代わり!」

葉一「ん?」

梢「夏休みの間は、いつも一緒だよ?」

葉一「…お安いご用だ」

幸せそうに笑う二人。だが学園の門をくぐると、そこには武宮が立っていた。

武宮「やっと来たか…勝負だ葉一」

武宮は手にしていた木刀を葉一に放り投げた。

葉一「っと…何ですか、朝からいきなり」

武宮「問答無用、本気で来い!」

突然の出来事に戸惑っていたが、武宮の目を見た葉一は剣を構えた。

梢「葉ちゃん!」

葉一「離れていろ…大丈夫、今度は負けないよ」

親指を立てて、梢に微笑む葉一。

梢「うん…頑張ってね。信じてるよ」

少し離れた所にいる栞と香介を見つけた梢は、二人の所まで駆け寄った。

梢「武宮先生は一体どうしたの?いきなり勝負だなんて…」

栞「アタシ達だって知らないわよ。何考えてんのかしら」

香介「あのおっちゃんの事やから、何か意味があるんやないか?」

どうやら、誰も武宮の思惑を知らないらしい。

葉一と武宮はお互いに剣を構え、相手の目を見ている。そして一陣の風が吹いた時…二人は同時に動いて剣を交えた。

武宮(以前と違う…太刀筋に迷いが無い!)

葉一(さすがにやる…だが、負けるわけにはいかない!)

最初から本気で剣を交える二人の攻防は果てしなく続き、見ている方は瞬き一つ出来なかった。

間合いを取る両者。今度は構えたまま動かない。

武宮(前と同じでは俺には勝てんぞ。さあ、どうする!?)

葉一(弧月や屠竜はもう通用しない。でもあの技なら…勝てる!)

葉一は弧月の構えで武宮に向かって行く。

武宮「その技は通用せんぞ!」

武宮は攻撃を受け流して葉一の態勢を崩す気だ。

葉一「前と同じだと思うなぁっ!」

弧月を放つ葉一。だが武宮に受け流され、剣を逸らされた。

武宮(む?手応えが…これは!?)

受け流されて態勢を崩した葉一は…既に次の一撃を放とうとしていた。

武宮(な…早すぎる!)

何とか次の攻撃も受け流したが、葉一はすぐに次の一撃を放ってくる。

武宮(何だ?先程までと動きが違う!?)

栞「あんなに攻撃してるのに、全然当たらないよ!」

香介「いや…違う」

栞「違うって、何が?」

香介「あれだけ攻撃を受け流されていれば、普通は態勢を崩してしまうんや。せやけど葉一は違う。ちっとも崩れてへん。それどころか、すぐに次の一撃を打ち込んどる」

香介の言う通りだった。葉一は受け流される事なく、流れに任せて体を動かしている。動きに無理も無駄も無い…葉一の剣は風の様に捉えどころのない、鮮やかな軌跡を描いていた。

霧羽流剣術
参の太刀『烈風』の前に武宮は翻弄されてしまっていた。

武宮(くっ…まるで、俺の方が葉一に踊らされているみたいだ。このままだといつかは…!)

業を煮やした武宮は、鋭い一撃を葉一の首元に放った。

栞「あっ、危ない!」

だが、葉一は軸足を中心にして体を回転させて、武宮の一撃を躱した。そしてそのまま、武宮の胴を狙って最後の一撃を放った。

葉一「はあっ!!」

一瞬の出来事だった…武宮の剣は空を斬り、葉一の剣は武宮の脇腹に寸止めされている。

武宮「…俺の負けだな、完敗だよ」

葉一「ふうっ、ありがとうございました!」

二人は剣を引いた。

武宮「…どうやら、見つけたみたいだな」

葉一「はい、お陰様で」

武宮「俺は何もしてないさ…だが、いい目になったな。ここに来た時とは大違いだ」

葉一「そうですか?」

武宮「ああ。一人前の男の目だ」

武宮の言葉に、葉一は晴れ晴れとした気持ちになった。一人前と認められたのだから…

梢「葉ちゃ〜ん!」

梢は走って来た勢いで、そのまま葉一に抱き付いた。

葉一「おわっ!…っと…危ないだろ」

梢「だって、嬉しいんだもん!葉ちゃんが先生に勝ったんだよ!」

葉一「ありがとう、梢のお蔭さ」

梢「勝てたのは葉ちゃんの力だよ…私は何もしてないから」

葉一「そんな事ないさ。梢がいたから俺は頑張れたんだよ」

梢「葉ちゃん…」

見つめ合う二人は…

栞「熱いねぇ〜二人共」

香介「すっかりラブラブになってもうて…何があったんやろなぁ?」

せっかくのムードは突然の冷やかしにぶち壊された…

葉一「い、いきなり何だよ…」

栞「あらら?葉一君…唇に口紅が付いてるよ」

葉一「えっ!?」

思わず手を口に当ててしまった葉一。

栞「や〜っぱりキスしたんだねぇ」

あっさりと誘導尋問に引っ掛かる葉一…

梢「うぇっ!?あああ、そ、それはその」

葉一「い、いや別にな、その」

栞「照れなくてもいいわよ。おめでとう葉一君、梢♪」

梢「もうっ…」

香介「梢ちゅわ〜ん!俺にも熱っついキスして〜な…ぐがっぶぉ!」

梢に飛び掛かろうとした香介は…栞ラリアットと葉一のボディブローを食らって、崩れ落
ちた…

栞「…もうアタシがいなくてもいいみたいね」

葉一「そんな事ないさ。でも、今まで梢を護ってくれてありがとう」

栞「いえいえ、どういたしまして♪」

おどる栞に、葉一も梢も笑っていた。

武宮(護るべき人…か)

武宮は夜凪の長い髪を思い浮かべ、誰かの面影を重ねていた…

第19話  完

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