第11話
[喫茶店]

葉一と梢はバスを降りて、麓の街を歩いていた。途中で駅に寄って、葉一は昨日お世話になった駅員さん(実は駅長)に挨拶した。梢とも知り合いらしく、少し話をしてから駅を出た。

葉一「知り合いだったのか?」

梢「うん、私がこの街に引っ越して来てからかな」

葉一「え、この街に住んでるのか?」

梢「そうだよ。七年前に引っ越してから、私達家族はこの街に住んでるの。…言ってな
かったっけ?」

葉一「聞いてないぞ。…ったく、そういう間抜けなところは変わらないな」

梢「ひどいよ…クスン…」

葉一「嘘泣きするな。じゃあ後で梢の両親に挨拶に行こうかな」

梢「今はいないよ。夏休みが始まる頃、二人とも演奏旅行に行っちゃったから」

葉一「そうなのか?じゃあ仕方無いか」

梢の母は著名な音楽家で、演奏から作曲まで何でもできる人だ。特にピアノは素晴らしい腕前の持ち主で、年に一度は外国を回って各地で演奏しているから、三か月は帰ってこない。梢の父はそのマネージャーで、演奏旅行には必ず付いて行く。二人だけで行くあたりが梢の両親らしいのだが…

葉一「俺の親に負けず劣らずなくらい、仲良いからな」

梢「そうだね。でも私の前で見せつけなくてもいいのに…」

葉一「まったくだ。子供の身になってほしいよ…」

梢「言っても無駄だと思う…」

既に諦めた感じの梢だが、葉一もそれは同じらしく、苦笑いを浮かべた。

葉一「さて、腹減ったしな。とりあえず、どこかで昼御飯食べようか」

梢「うん。どこに入ろうかな〜……あれ?」

葉一「どうした?」

何かの建物に目を止めた梢は、首を傾げた。

梢「あんなところに、喫茶店なんてあったかな?」

梢の視線の先には、やや小さいが鮮やかな建物・喫茶店らしきものがあった。

葉一「開店してるみたいだし、行ってみるか?」

梢「うん♪」

近付くと建物の外観が見て取れた。

『eternity』

店の名前らしい英語が大きな看板に書かれていて、目を引いた。

入口を開くと鈴が鳴り、続いて女性の声が店内に響いた。

女性「いらっしゃいませ〜♪」

綺麗な声が二人を迎えた。

葉一「食事、いいですか?」

女性「いいわよ、お二人ね。こちらへどうぞ」

カウンターへ招かれ、二人は椅子に座った。

女性「何になさいますか?」

メニューを出してもらい、しばし考え込む。

梢「えっと…じゃあ、サンドイッチセットをミルクティーで。あと、ポテトサラダ下さ
い」

葉一「俺は、ナポリタンとアイスコーヒーをお願いします」

女性「はい、かしこまりました。少々お待ち下さいね」

店員さんは注文を聞き、早速調理を始めた。

待っている間、葉一は店内を見渡した。

テーブル1つにつき椅子が4つ。それが2組あって、カウンターは椅子が5つ。最高で13人しか座れない。

(ちょっと狭いけど…内装は結構いいな)

インテリアの種類や配置が絶妙で、椅子やテーブルも光が反射して輝いて見える。

葉一「ちょっと小さいですけど、いいお店ですね」

調理を続けながら、店員さんは明るい声で答えた。

女性「ありがとう、嬉しいわ。実は今日がオープンなの。さらに…あなたたちが初めてのお客様よ」

梢「そうだったんですか。…えっと、他に店員さんはいないんですか?」

女性「ええ、私一人なの。まあ、ちょっとした趣味みたいなものだから」

葉一「でも、一人なんて大変じゃないですか?」

女性「そうね。だけど、私はこういうの好きだから」

会話しながらも、テキパキと作業する姿は様になっている。

女性「はい、お待ちどうさま。どうぞ、召し上がれ♪」

ほぼ同時に完成した料理を、カウンターに出してくれた。

葉一&梢「いただきます」

一口食べると、口の中に言いようのない美味しさが広がった。

女性「どうかな?」

葉一「おいしい!」

梢「うん、おいしいです!」

女性「ありがとう♪美味しくなかったらどうしようかと思っちゃった」

梢「これなら、お客さんいっぱい来ますよ」

女性「そうだといいわね。あ、名前聞いてなかったわね。良かったら、教えてくれるかな?」

葉一「俺は、霧羽葉一です」

梢「私は、鷹坂梢です」

女性「葉一君に梢ちゃんね。私は、東雲夜凪。夜凪でいいわよ」

梢「しののめ、やなぎ?どんな字ですか?」

葉一「しののめは東に雲で、やなぎは植物の柳ですか?」

夜凪「残念。やなぎは夜に凪よ」

梢「かっこいい名前ですね」

夜凪「ありがとう。梢ちゃんも葉一君もいい名前だよ」

笑顔の似合う明るい人だと思う。葉一も梢も自然に話していた。

夜凪「ところで……二人は恋人なのかな?」

いきなりの質問に、葉一は食べていたものを吹き出しそうになり、むせた。

葉一「ゲホッ、ゲホッ、…夜凪さん、いきなり何言うんですか〜?」

夜凪「違うの?お店に来た時は腕組んでたし、名前で呼び合ってるし。お似合いだと思うけどな〜。今日はデートなんでしょ?」

梢「え、えっと…私と葉ちゃんは幼馴染みで、今日は葉ちゃんのお買い物に私が付き合っ
てるだけ…かな?」

夜凪「それって、立派にデートだと思うよ」

葉一「うぐ…否定はしませんけど、いろいろと事情があるんです」

葉一と梢は、夜凪に自分達の過去や現在の事などを話した。

夜凪「そっか〜、離れ離れの幼馴染みが再会したんだ。ロマンチックだね。憧れるよ〜」

梢「……えへへ♪」

照れながらも梢は嬉しそうだ。

葉一「夜凪さんにはそんな人、いないんですか?」

夜凪「わ、私!?」

よく見ると、夜凪さんはかなりの美人だ。腰まで伸びた長くて綺麗な髪。スタイルも抜群で、非の打ち所の無いプロポーションだ。

葉一「夜凪さん美人なんだから、男が放っておかないんじゃないですか?」

夜凪「あら、嬉しい事言ってくれちゃって。…でも、梢ちゃんが怒ってるよ?」

梢「………」

梢から怒りのオーラを感じた…

葉一「何怒ってるんだよ。別に夜凪さんを口説いてたわけじゃないんだから」

梢「…ふん!どうせ私は夜凪さんみたいに、美人じゃないですよ〜!」

すっかり拗ねてしまい、梢はそっぽを向いた。

夜凪「あらあら…」

第11話  完

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